【1話】毎日つまらない‥、30代、このまま終わっちまうのか?

夜道に佇む自動販売機 STORY

夜風がやけにぬるかった。

男はポケットに手を突っ込んだまま歩いていた。小銭が数枚、指先でぶつかる。さっきまであったはずの紙幣はもう、ない。

── マジで毎日つまんねぇ‥。

そんな言葉が、頭の中でやけにしつこく響いていた。

仕事して、飯食って、たまにパチンコで負けて帰る。それだけの繰り返しだ。気づけば三十代後半。何かを掴んだ実感もないまま、ただ時間だけが過ぎていく。

── 俺の人生、こんな感じで終わってくのか。

信号待ちで立ち止まりながら、ぼんやりと思う。答えなんて出るはずもないのに、考えずにはいられなかった。

ふと、自販機の明かりが目に入る。

一瞬買うかどうか迷ったが、こんなわずかな金を残していてもしょうがない。男がポケットから小銭を取り出し、自販機へ挿入しようとした瞬間だった。

???
???

ごはぁ!!

おっさん
おっさん

うわぁ!びっくりした!
え‥?なにこれ‥?

???
???

貴様!いきなりなにをする!?

おっさん
おっさん

えぇっ!?しゃべってるし!

???
???

しゃべるに決まってるだろう!
ワシは神さまだぞ!

おっさん
おっさん

か、かみさま?、ですか‥?

餅神さま
餅神さま

そうだ。やっとわかったか。

おっさん
おっさん

えっと‥、その、かみさまがこんなところでなにを?

餅神さま
餅神さま

人を踏んづけといて、まず謝らんかい。

おっさん
おっさん

あぁっ!そうでした!
この度は誠に申し訳ありません!
お、お怪我などございませんでしたか!?

餅神さま
餅神さま

怪我はない。ワシは無敵だからな。
ただ、こんなパチンカスに踏みつけられて非常に不快であった。

おっさん
おっさん

こ、これは大変しつれい致しました!
なんとお詫びすればよいものか‥、
し、しかも、私がパチンカスであることまでお見通しとは‥。
まさか、あなたは本当に神さまなのですね。

餅神さま
餅神さま

さっきから言ってるだろう。
なんなら、貴様が昨晩なにをオカズにしてオ◯ニーしたのか当ててやろうか?

おっさん
おっさん

えっ!そんなことまで!?い、いや!?神さま、お願いします!
それだけは言わないでください!どうかご勘弁を!

餅神さま
餅神さま

ご勘弁て。ワシはもう知ってるんだぞ。
なにを今さら。

おっさん
おっさん

他人に面と向かって言われるのはきついんです!

餅神さま
餅神さま

ほーん。
まぁ、お前がなにで抜こうがワシの知ったこっちゃないからな、深入りはしないでおくが。
J◯の痴漢モノや盗撮系ばかり見てないでもっと健全なものにしていったほうがいいんじゃないか?

おっさん
おっさん

うわあああぁぁ!言わないでくださいよう!

餅神さま
餅神さま

悪いことはいわん。これからは年相応のものを見るようにしなさい。
じゃないと手遅れになるぞ。

おっさん
おっさん

ううぅ‥‥、はい‥。

餅神さま
餅神さま

うむ。わかればよい。
まあ、反省してるようだし、さっき踏んづけたことも今回は許してやろうじゃないか。
寛容な精神で。

おっさん
おっさん

‥‥。

ありがとうございます‥‥。




ポケットの中の小銭は、さっきよりも少しだけ軽くなっていた。

だが、今は胸ポケットのあたりが、わずかにあたたかい。

神様が、胸ポケットで寝ている。

頭の中で言葉にしてみても、やっぱりよくわからない。どうせまともに説明できる気がしないので、途中で考えるのをやめた。

── これ、どうするんだろうな。

誰に聞くでもなく、ひとりつぶやく。

なぜかウチで晩飯をごちそうすることになったが、冷静に考えてみたら何か食べるものなんてあったか?

それに今日はかなり手痛くやられていた。正直、自分のぶんすらどうしようか悩んでいたところだ。

それなのに、不思議と放り出して帰る気にはなれなかった。

── まあなんとかなるか‥。

そう言い聞かせて、コーヒーを飲み干す。

見慣れているはずの帰り道が、いつもと少しだけ違って見えていた。

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