【8話】殴った理由

鏡餅 STORY



さっきまで部屋を満たしていた笑い声は、嘘のように消えていた。

静けさが戻ると同時に、男は無意識に背筋を伸ばしている。

──殴った理由。

軽口の延長で済ませていい話ではないと、本能が告げている。

目の前の神は、先ほどまで腹を抱えて笑っていたとは思えないほど、落ち着いた目をしていた。

その視線に射抜かれるだけで、先ほどとは別の緊張が、じわりと胸の奥に広がっていく。

どうやら、笑い話はここまでらしい。



餅神さま
餅神さま

『まずい』、どころじゃない。

このままいくと、とんでもないことになる。
だからぶん殴ってやったんだ。

おっさん
おっさん

へ?
と、とんでもない??

餅神さま
餅神さま

うむ。
口で説明するより、見てもらった方が早いな。


──うにょにょにょにょにょにょにょ‥‥
 (餅神がめん棒で引き延ばされたように薄く、平べったくなる)

おっさん
おっさん

うわぁっ!!?
なんすかそれ!?

餅神さま
餅神さま

今から貴様に、ある映像を見せる。
ワシの表面をのぞきこんでみろ。

おっさん
おっさん

ワシの表面って‥。
え?、ここになにか映るんですか?


鏡のように滑らかになった神さまの表面に、おぼろげに映し出された映像。

そこにあるのは、真っ白い壁の、無機質な部屋。

腕や鼻に管を通され、痩せ細った姿でベッドに横たわっていたのは、紛れもなく自分の母親だった。


おっさん
おっさん

ああっっ!!?

!!

おっさん
おっさん

なんだよ、これ!!!!
おいっ!!!
かあちゃんっ!!!?
なにしてんだよ!!!?

餅神さま
餅神さま

うろたえるな、

これは録画だ。
そう遠くない、未来のな。

おっさん
おっさん

みらい‥?

こんな‥‥、
こんなクソッタレなもんが、オレの未来??

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