【5話】最期に思い浮かんだこと

エプロンをして庭に立つ笑顔の母親 STORY


男は動けずにいた。

指先からじわじわと力が抜けていき、膝の上に置いた手が、かすかに震えているのがわかる。喉はひどく乾いているのに、唾を飲み込むことすら上手くできなかった。

──死体はぜんぶツブして喰った‥

その言葉が、頭の中で響いてくるたび、心臓が強く跳ねた。

呼吸の仕方を忘れたみたいに、息が浅い。胸の奥がざわついて、落ち着こうとするほど、余計に乱れていく。

目の前にいるのは、ついさっきまで飯を食っていた相手だ。だが今は、その同じ顔がまるで別のもののように見えた。

──「えっと‥、そ、それはまた、ど、どういう‥‥?」

言葉が続かない。何を聞けばいいのか、どう聞けばいいのか、それすらわからなかった。

対して、神は変わらない。まるで何も特別なことは起きていないかのように、静かに男を見ている。

その落ち着きが、何よりも恐ろしかった。



餅神さま
餅神さま

まあ、早いはなしが罰みたいなもんだ。
人間だって罪を犯したらそれを償わねばならんだろう。

おっさん
おっさん

え?
ええ、まぁ‥、そ、そうですね。

餅神さま
餅神さま

それと同じことよ。
贖罪のため、ワシは命令されてここにやってきたのだ。

おっさん
おっさん

しょ、しょくざい?
ですか?

餅神さま
餅神さま

そうだ。
まぁ仕方のないことだな。
あれだけのことをやったんだ。

おっさん
おっさん

っ‥‥!?

(ま、まずい‥、やはり俺は喰われるのか!?)

おっさん
おっさん

(いや待て、落ち着け!
まだそうと決まったわけじゃない!しかし、一体どうする‥?!)

おっさん
おっさん

(と、とにかく何か言わないとっ!!)

餅神さま
餅神さま

どうした?
すっかり黙って?

おっさん
おっさん

え?
え‥えっ‥とぉ〜、

餅神さま
餅神さま

おう。
エンリョせずなんでも聞いてみろ。

おっさん
おっさん

それってもう‥、取り返しがつかないかんじですか?

餅神さま
餅神さま

取り返し??
なんの?

おっさん
おっさん

その‥、しょくざい?の件です。

餅神さま
餅神さま

ああ、それか。

そうだな、裁判所の決定だからな。
もう絶対にくつがえることはない。

おっさん
おっさん

ど、どうしても‥、ですか?

餅神さま
餅神さま

どうしてもだ。

逆らうと今度はワシが死ぬことになる。

おっさん
おっさん

‥‥。

(も、もはやこれまで、か‥?

餅神さま
餅神さま

???

‥‥。

おっさん
おっさん

あ、あのっ‥!

餅神さま
餅神さま

うむ、
どうした?

おっさん
おっさん

最期に、母親に電話させていただいてもよろしいでしょうか!!?

こんな自分でも‥‥、
突然いなくなったら多分、心配すると思うので!!!

餅神さま
餅神さま

さいご??
最後なのか?

別に電話くらい、いつでもすればいいと思うが。

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